2010年05月27日

日本の防疫

日本の防疫

 わが国はOIEの口蹄疫清浄度区分でも最も高い清浄度に位置付けられている。このため,国際家畜衛生規則による輸入相手国の口蹄疫清浄度に応じて,農畜産物に輸入禁止,条件輸入などの制限措置を講じ,その清浄度を維持している。また,同時に関連法規に基づいて厳重な検疫体制が敷かれている。しかし,万一わが国で口蹄疫が発生した場合には,「家畜伝染病予防法」(法律第166号,昭和26年5月31日)並びに「海外悪性伝染病防疫要領」などの関連法規に基づき,移動制限と殺処分方式を基本とする防疫措置がとられる。病性決定までの措置や決定後の措置などもこの防疫要領に定められている。

 それによると,患畜及び疑似患畜はすべて殺処分と埋却あるいは焼却する。疑似患畜には,患畜と同居する感受性動物の全てと,口蹄疫の伝播において発生農場と関係のある飼養施設の感受性動物全てが対象になる。口蹄疫の伝播はきわめて早いので,発生した場合に最も重要なことは,可能な限り早期に発見して,発生農場の家畜を移動禁止とし,病性が決定したら早急に殺処分して,蔓延防止を図る。汚染飼料,畜舎及び汚染の可能性のある全ての器具,資材も消毒または焼却する。発生時に防疫資材として使用する消毒液には,安価で大量に調達できる確実な消毒液が望ましく,2%苛性ソーダや4%炭酸ソーダ(いずれも工業用で可)などが適している。一方,蔓延防止のために発生地を中心にした段階的な移動制限措置がとられる。患畜と疑似患畜の所在する発生地では,48時間を越えない範囲で通行遮断が実施できることになっている。また,発生地から半径20Km以内を汚染地とし,最終発生例の措置後3週間までの範囲で牛や豚など感受性家畜の移動を禁止,家畜市場や食肉センター等を閉鎖する。さらに,発生地から半径50Km以内を警戒地域とし,初発後3週間以内の範囲で牛,豚,緬山羊などの感受性家畜の域外への移動を禁止する。こうした蔓延防止措置はきわめて重要かつ有効であるが,その実施に当たっては綿密な追跡調査の結果に基づいて実施される必要がある。

 ワクチンの使用は国が必要と判断した場合にのみ指示によって使用することができる。このため,わが国では不測の事態に備えて近年の流行株の抗原性状を勘案してワクチンが備蓄されている。しかし,上述したように口蹄疫ワクチンは不活化ワクチンで,その効果は,例えば豚では豚コレラワクチンの様に優れたものではない。また,ワクチン製造に用いているウイルスの抗原性が,流行株と同一である確率は理論的には低く,著しく異なる場合には効果がないか,あっても弱いので感染を阻止できないという問題や,ワクチンによる免疫成立までに日数を要するなどの問題がある。さらに前述したように,免疫持続期間が比較的短いこと,幼獣の免疫応答が弱いこと,ワクチン接種後の抗原変異や移行抗体の問題など多くの問題もある。また,ワクチン接種しない清浄国の地位を保つことが,畜産物の国際競争力を維持できるという経済的な理由もある61)。このため,ほとんどの先進国では,口蹄疫の発生があった場合にも迅速な殺処分を防疫の柱とし,ワクチンの使用は,発生が多く殺処分のみでは防疫が間に合わない場合に一時的に地域を限定して蔓延を防止する,いわゆる周辺ワクチネーション(戦略ワクチン)を実施することにしている5,36,87,94)。この方法は,清浄国に復帰するまでの期間を短縮し,その経過を容易にするためでもある。さらに,ワクチンを接種した動物は,ウイルスの感染を隠すため,接種動物は移動を禁止して発生が終息した時点で淘汰する方法がとられる85)。このため,防疫のためであってもワクチンを使用した際には,OIEは清浄国への復帰条件として病原並びに血清学的な全国調査を義務付けている85)。こうした事態に備えてすでに家畜の個体識別制度を導入した国や地域もある36)。このように,清浄国で発生時の緊急防疫のために使用するワクチンは,OIEが国際衛生規則で定めている清浄国への復帰条件を見据えて使用されるべきものである。



 口蹄疫には,伝染力が強い,宿主域が広い,早期発見が難しい,及び,ワクチン効果に限界があるなどの防疫上の基本的な問題があり,世界の畜産業にとって,輸出国,輸入国のいずれの立場でも,最も重要な家畜伝染病に位置付けられている。このため,農産物の流通を著しく制約する口蹄疫に対しては,汚染地域では周辺国との協力で広域の清浄化計画が進行中であるとともに,清浄地域では周辺国あるいは経済圏単位で共通の防疫対策がとられている。一方,わが国は世界でも最大級の畜産物輸入国であると同時に,国際的には依然相当数の飼養家畜を有する畜産国でもある。こうした状況下で,口蹄疫が侵入,蔓延して防疫に手間取るような最悪の事態を想定すれば,国内畜産業は多大の直接的な経済被害を受けるばかりでなく,現在制限されている地域の畜産物との内外価格差を考慮すると,わが国の畜産業全体が極めて厳しい立場におかれる恐れがある。ワクチンを使用しない完全な口蹄疫清浄国の立場を保つことが,国内畜産業の安定の前提になっている。従って,万一本病が発生した場合にも,被害を最小限にとどめ常在化させることのないよう,口蹄疫の病性を理解し迅速,的確な対応をとる必要がある。

(動衛研論文より引用)
ニックネーム りぼん。パパ at 01:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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