2008年01月23日

世界養豚獣医会議での、豚の疾病報告について。

発表演題数を病原体別に整理したものを図1に示す。演題数が多いものは,各国において関心が高く,またその対策が活発に行われている疾病と考えることができる。ずば抜けての第1位は豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスに関するもので,115題発表された。第2位はLawsonia intracellularis (疾病名: 豚増殖性腸炎)に関するもので64題,第3位はMycoplasma hyopneumoniae (疾病名: 豚マイコプラスマ肺炎)に関するもので61題,第4位は豚サーコウイルス(疾病名: 離乳後多臓器性発育不良症候群: PMWS,他豚サーコウイルス感染症)に関するもので60題,それぞれ発表された。これらが今回のIPVS2006における4大トピックである。そのうち3つが豚呼吸器複合感染症(Porcine respiratory disease complex:PRDC)に関与する病原体であることから,世界の養豚産業において呼吸器病の制御がいかに重要な課題であるのかを物語っている。消化器系疾病で唯一ランクインしたのがLawsonia intracellularis である。これは,後述する新しい生ワクチンの普及により,本疾病に対する関心が高まった結果であると思われる。

豚の病気グラフ.jpg

PRRSウイルス
  Zimmerman, J.(USA)によるAn update on PRRSV prevention control, and diagnosisというタイトルの基調講演に,本疾病をとりまく最近の状況がよく整理されていたので紹介する。
  PRRSウイルスが発見されてから15年以上経過するが,養豚生産者はいまだにPRRSによる甚大な経済的被害を被っている。北アメリカにおいてはNational Pork Board, American Association of Swine Veterinarian (AASV), およびUSDA North Central 229 (NC-229) Committeeの3つの組織を中心に,PRRSの制御に向けて取り組んでいる。全米での経済的被害は,繁殖豚において66.75百万ドル(約80億円),肥育豚において493.57百万ドル(約590億円)に及んでいる。PRRSウイルスの遺伝子型は,1型(ヨーロッパ型)と2型(北アメリカ型)に分かれ,以前には1型に比べて2型でより遺伝的変化が大きいとされた。しかし,最近では1型の中に2つのサブタイプが認められるなど,1型ウイルスの遺伝的変化が進行していることが示されている。また,従来,1型と2型では分布する地域が異なるとされていた。しかし,従来は2型のみが分布したとされる北アメリカにおいても1型が分離されたとの報告があり,またタイとオーストラリアにおいては,両方の型のウイルスが存在するとされる。今まで,PRRSウイルスの分布に関しては「エントロピー」の法則が働くとの見方が主流であったが,最近では,同一の生産システム,同一農場,ひいては同一個体内にも遺伝的に異なる種類のウイルス株が共存可能であるという事実が明らかになり,その対策を考える上において発想の転換を迫られている。
  本病の診断については,現在,盛んにPCRと抗体検査キットが利用されている。しかし,102頭の実験感染豚を用いた試験では,PCRによる検出率は26%であり,検出感度の低さが問題となる。また,検査室によってPCRの感度,特異性にバラツキがあるとされる。PRRSの撲滅に向け,国あるいは地域レベルで大規模にPRRSウイルスの検査を実施する必要があるが,その際に,1) PCRを用いた場合の標準検査手順が定められていない 2) 抗体検査で偽陽性と疑われた検体の迅速な確認検査方法がない 3) オンサイト(豚のそば)で実施できる迅速・簡易なスクリーニングテストがないこと等が問題となる。
  北アメリカでは,PRRSウイルスの撲滅が最良の(おそらく唯一の)解決方法であるということがコンセンサスになりつつある。南アメリカのチリでは,すでにその撲滅に成功している。しかし,北アメリカのような養豚の密集地帯では,苦労して農場からウイルスを一度排除しても,すぐに再侵入を許してしまうだろう。そこで,PRRSウイルスの撲滅は,少なくとも地域レベルにおいて達成されなければならない。これに関して,感染を阻止あるいは抑制することが可能なワクチンが開発されていない中で,果たして本当に地域レベルでのPRRSウイルスの撲滅が達成可能なのかということが議論になっている。北アメリカではオーエスキー病ウイルスの撲滅に成功したが,それには,有効性が高く,ウイルスの伝播を阻止でき,かつ野外株との識別が可能な優れたワクチンの存在が大きかった。しかし,PRRSウイルスに関しては,現在もその感染・免疫に関する基礎知識が不足している状況において,すぐに優れたワクチンが開発される望みは薄いだろう。そこで,我々はワクチンだけに限定することなく,本病の撲滅に向け,あらゆる解決方法を模索すべきである。


豚サーコウイルス2型(PCV2)
  Allan, G and F. McNeilly (UK)による, PMWS/PCVD : Diagnosis, Disease, and Control : What do we know? というタイトルの基調講演がなされた。
  Postweaning multisystemic wasting syndrome(PMWS)の発症にPCV2が関与していることは明らかである。しかし,PCV2は繁殖障害や豚呼吸器複合感染症(PRDC)をも引き起こすことから,PCV2の感染によって引き起こされる様々な症候群をPorcine Circovirus Diseases (PCDs)と定義し,その中の最も重要な一症候としてPMWSを位置づけるのが妥当であろうとのことであった。本基調講演の中では,本病に関する様々な最新知見が簡潔に整理されており,詳細は抄録を参照されたい。一方,「Results of research and field studies have generated more questions than answers.」 と表現されているように,本疾病についてはまだまだ不明な点も多く残されている。
  本病対策用のワクチンが最近開発され,本講演でも「Hope for the future (at last) ?」と紹介されており,その効果に期待が高まっている。その一つは,アジュバント加不活化ワクチンで,Circovac という商品名でメリアル社から販売されている。本ワクチンは,母豚に免疫し,初乳を介した移行抗体により子豚をウイルスの感染から防御するもので,フランス,ドイツ,デンマーク,カナダ等の国で条件付ライセンスを受けている。予備的な成績および生産者や獣医の評判は良好なものである。他の一つは,PCV2由来のカプシドタンパク質をコードするORF2を,非病原性のPCV1にクローン化することにより作出したキメラ型感染性DNAクローンに基づくものである。これはSuvaxyn PCV2-One Doseという商品名でフォートダッチ社から販売されている。本ワクチンは3〜4週齢の子豚に1回注射して適用する。ヨーロッパとアメリカで行われた実験室内における攻撃試験では,非注射豚に比べて,ワクチン注射豚でウイルス血症が抑制され,組織学的病変も有意に減少した。安全性については,アメリカで行われた少なくとも1箇所のPCV2の汚染農場における臨床試験によって確認された。これらのワクチンに関する使用成績は,本学会においても多数発表されており,メリアル社のワクチンについてはJoisel, F. ら (France)−Field evaluation of the effects of a PCV2 vaccine (Circovac) in Germany during the exceptional license process 等,フォートダッチ社のワクチンについてはOpriessnig, T. ら(USA)−Comparison of the effect of three different serotherapy regimens and vaccination with a chimeric PCV1-2 vaccine to protect pigs against PCV2 infection and diseaseに発表され,参加者の注目を集めていた。


Mycoplasma hyopneumoniae
  現在,世界で最も普及している豚病のワクチンはMycoplasma hyopneumoniae 対策用ワクチンであろう。今回の学会においても,様々なワクチンについて,その適用方法,使用成績および効果比較等について多数の演題が発表されていた。一方,本病原体の感染,免疫および防御メカニズムについては未だ不明な点が多い。本病原体に関する基礎知見の蓄積は,将来,より効果的な対策や優れたワクチンの開発へと結びついてゆくだろう。今回の学会では,そのトピックのひとつに,ワクチン注射によってM. hyopneumoniae の感染・伝播が防げるのかという課題があった。これに関して興味深い演題が数題発表されていたので,その一部を紹介する。
  Meyns, T.B.S. ら (Belgium) によるEvaluation of the effect of vaccination on the transmission of Mycoplasma hyopneumoniae という演題において,発表者らは,ワクチン注射豚と非注射豚を,M. hyopneumoniae に人工感染した豚と44日間同居させ,ワクチン注射が本マイコプラスマの感染・伝播に影響するかどうか調べた。その結果,ワクチン注射豚では21頭中16頭が,非注射豚では21頭中19頭がそれぞれM. hyopneumoniae に感染し,ワクチン注射により同居感染を有意に抑制できるという結論は得られなかった。しかし,形成された肺病変は,非注射対照豚に比べて有意に減少したことから,ワクチン注射により肺病変形成の抑制効果がみられることは確認された。
  Pieters, M. ら (USA)によるTransmission of Mycoplasma hyopneumoniae to vaccinated and unvaccinated replacement guilts from persistently infected pigsという演題において,米国の農場では,一般に,既存の母豚から新規導入母豚への感染を防ぐ目的で,導入母豚にM. hyopneumoniae ワクチンを接種している。しかし,本当にワクチン注射によって導入母豚を感染から防ぐことができるのかどうかについては,実証されていなかった。そこで,発表者らは,15週齢の繁殖候補豚18頭の気管内にM. hyopneumoniae を接種し,感染80日後に,ワクチンを注射した候補豚15頭および非注射対照の候補豚15頭を,感染豚とともに2週間同居させた。同居2週後に剖検し,鼻腔スワブ材料を採取し,nested-PCRによりM. hyopneumoniae の感染の有無を確認した。その結果,ワクチン注射豚では15頭中8頭から,非注射対照豚では15頭中5頭からM. hyopneumoniae が検出され,ワクチン注射によって導入豚へのM. hyopneumoniae 感染を防ぐことはできなかった。
これらの発表演題からすると,現在市販されているバクテリン型のM. hyopneumoniae 対策用ワクチンは,その適用により本マイコプラスマ感染に伴う肺病変形成を抑制することができるものの,マイコプラスマの感染・伝播を阻止あるいは抑制する効果を期待するのは難しいようである。M. hyopneumoniae 感染の撲滅を目指すには,一般的なバイオセキュリティーの充実を図るとともに,今後,本マイコプラスマの感染・伝播を阻止することが可能な新規ワクチンの開発が望まれる。 


Lawsonia intracellularis
  豚増殖性腸炎の原因であるLawsonia intracellularis は,世界中の養豚地帯に蔓延している。北アメリカでは急性型の発症が主体で,罹患豚は暗赤色のタール状便を排出して急死する。一方,アジアとヨーロッパでは慢性型感染が中心で,罹患豚の便は軟便程度で,臨床的にはっきりとした症状は示さない。一方で増体重が低下し,肥育豚の体重のばらつきの原因となる。
  2001年にベーリンガーインゲルハイム社は,世界で初めて本病対策用の生ワクチンを開発した(商品名:Enterisol ileitis)。開発当初のワクチンは,液体窒素中で保管・流通される凍結型のものであったが,その後改良されて凍結乾燥型になり,ヨーロッパやアジアにも輸出されるようになった。アメリカでは,急性型増殖性腸炎の制御において本ワクチンが顕著な効果を示したことは既に報告されている。一方で,慢性型増殖性腸炎については,その経済的被害状況すら明確ではなく,そのワクチン効果も不明であった。そこで,今回の本学会で発表されたヨーロッパにおけるワクチンの使用成績は,慢性型感染に対する本ワクチンの効果を知る上で,大変興味がもたれた。スイス,ドイツ,デンマークおよびフィリピンにおいて本ワクチンを用いた大規模な野外試験が行われ,これらの成績はVoet, H.C.J.W. and T. Hardge(Germany)によるA mata-analysis on the global efficacy and economics of Enterisol ileitis という演題に取りまとめて報告された。そのすべての成績を平均したところ,対照豚に比べ,ワクチン注射豚では一日当たりの増体重は26g増加し,死亡率は1.18%減少したという。その結果,収入から経費を減じた利益は,豚1頭当たり4.29ユーロ(約640円)増加したとのことであった。なお,ワクチン注射による増殖性腸炎の形成抑制や菌分離率の減少等に関する成績は,今回は公表されていなかった。


(以上、日生研たよりより、転載。)

私が、興味をもったのは、養豚界で、興味を持たれている、呼吸器系疾患より、2番目のローソー二アの「慢性型感染の豚増殖性腸炎」です。これは、ペット豚に、罹患するのでしょうか?呼吸器系の疾患は、密飼いしない、ペット豚では、あまり、症例をみませんので、問題ないのですが。。腸炎は、気になるところです。







ニックネーム りぼん。パパ at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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